日本酒ってなあに?5 なぜ人は酒を飲むのか
御神酒
今回は、人はなぜ酒を飲むのか?という疑問を掘り下げていこうと思います。
前回の日本酒ってなあに?4では、人はなぜ酒を造るのかを探りました。
人は神様からお米をもらったお返しに酒を造り、それを神様にお供えすることで、返報性の原理を果たしていると説明しました。
酒の原料であるお米、その一粒には神が宿り、その米が結実するお盆の時期をご先祖様(神)が帰ってくる時期だと信じたことからも、お米の民俗性の強さが見て取れます。
お米をつくる里と田んぼは、神様のいる山の延長線上であり、山から注がれる種水とあわせて大切なものとされています。
米=神様ということですね。
人は神様からもらったお米に対して、感謝の祈りを捧げるためにお酒を造ります。
祈りが届くと奇跡(発酵)が起こり、お酒ができるんだと、昔の人は考えたのではないでしょうか。
そうしてできたお酒が御神酒(おみき)ですね。
御神酒とはその字の通り、神のための酒であり、神の力が宿った酒です。
ここに人が酒を飲む理由が隠されています。
人が酒を飲む理由
お祭りの日、造ったお酒と餅と米、食べものを神社にお供えして、五穀豊穣と子孫繁栄のお祈りをする神事を行います。
その後、神様にお供えしたお酒である御神酒を、神社にお参りくる参拝者に振る舞いますよね。
どこの神社のお祭りでも、御神酒を振る舞う姿を見ることができるので、今の私たちにも簡単に想像できるのではないでしょうか。
それは、神様のお下がりである御神酒を飲むことで、その土地の神様と同化するという意味があったのです。
これを神人同食の儀といい、同じ釜の飯を食うという言葉と同じ意味をもっています。
現代の私たちも同じですよね。
サラリーマン同士でも仲良くなるには酒を飲みます。
結婚式で新郎新婦がお酒を飲みます。
反社の親子兄弟盃も酒を飲みます。
これは知らない同士でも神様(概念)を担保にして仲良くなろうとしているのです。
観光地で地酒を飲むことも、その土地の神様と同化して、自分の生存本能を満たそうとしているのかもしれません。
日本酒ってなあに?4で示したホモサピエンスの前提能力を思い出してください。
「人は概念を共有することで群れとなり生存確率を上げている」ということを。
御神酒(概念)を飲むと群れが出来る。群れができると一緒に米が造れますね。
田植えや収穫、稲作の重要なタイミングでお祭りを行い、御神酒を飲むことで群れの確認をして、また稲作に励む。
ということで、
酒を飲む真の目的?狂気の盆踊り
人は稲作をして神様からお米をもらう。
人はお米のお返しとして酒を造り、神社にお供えをします。
御神酒となったその酒を人々が飲むことで神と同化し、他者と群れとなって、稲作に励みます。
人と神、米と酒の関係をみると、もうこの理由で十分な気がします。
しかしながら、
人々にはまだ重要なミッションが残っています。
それは、子供をつくることです。
その子供をつくるための一大イベントが盆踊りです。
どこのお祭りでもやっていますよね。
御神酒を飲んで、美味しい食べ物を食べて最後には必ず盆踊りです。
なんでか決まっています。
前述の通り、御神酒を飲んだ状態とは、神様(自然+御先祖様)の力を取り込んだ状態です。
御神酒で群れを実感し、アルコールの力とお祭りで食べるご馳走で、生存本能も十分に満たされ、心身ともに最高にハイになった状況です。
盆踊りで人々はハイパーモードでぐるぐると円になって踊り続けます。
なぜ踊るのか?
なぜ回るのか?
それは自分と子供をつくる相手を見定めるためです。
この盆踊り、全年齢の人が踊っていますが、本当の主役は若い子供を授かることのできる年齢の男女です。
彼らはハイになった状態で踊り、太鼓の振動を常に体に受けながら、踊り回りながら、相手を見定めます。
男女のアイコンタクトが成立した場合、ペアで抜けて、暗闇にまぎれ、まぐわいます。
このことを呼合い(よびあい)といいます。
今では夜這い(よばい)といって言葉のイメージが悪くなっていますね。
想像してみて下さい。
暗闇で、酒を飲んだ状態で、振動と音を浴びせられ、長い時間ぐるぐると回らされるのです。そんな中、魅力的な異性が踊っています。
もう目的はひとつ。
まぐわうしかありません。
日常に比べたら、お祭りで酒を飲んで踊ることは、男女の出会いに十分すぎるきっかけを与えますね。
普段、好きな人をチラチラみてる草食系男子もこの日は少し勇気を持てるかもしれません。
神様とご先祖様の後押しと酒の力、さらには盆踊りがありますからね。
盆踊りは意図的に集団催眠状態に陥れている状態です。
現代のクラブも一緒ですね。音と酒で男女をくっつける。
クラブと盆踊りの本質は一緒です。まぐわいの誘発です。
盆踊りをさらに昇華し、まぐわいを強調したお祭りは、奇祭などと呼ばれて楽しまれていますね。
至極まっとうな美しい人間の求愛行動です。
最終的に、酒を飲むということは、未来をつくるためだったのです。
酒を飲み、群れになったら、米と子供をつくる。
どちらも希望のある未来を造ることですね。
お祭りってすごいですね。
その1日に日本人の文化風習すべてが集約しているような気すらします。
まとめ
日本酒ってなあに?4・5では日本の伝統文化と風習としての日本酒、なぜ人は酒を造り、なぜ人は酒を飲むのかを見ていきました。
つまり日本酒とは神様にお返しする酒、御神酒だったということですね。
御神酒とは神様の力が宿った酒です。
御神酒を飲むことで、人と人は共通の神様を持つ、群れの仲間であること確認していました。
群れの確認をしたら共に協力して、五穀豊穣と子孫繁栄を目指していこうと言うことですね。
天穏を扱う出雲・松江の飲食店さんたちと
私にとっての最高の酒とは、御神酒であり、群れをつくり、未来をつくる酒だったのです。
原料を洗練させて造った酒、誰にとっても受け入れやすい酒、人を元気にする酒
これを実現するために山陰吟醸造り、突きハゼ3日麹、酵母無添加の生酛など先人から受け継いだ酒造技術が必要なんですね。
次回、最終回
日本酒ってなあに?6 いとなみ
2021.6.29小島達也
余談
ヒトは人ですね。
いつまでも1人です。孤独です。
それが他人と概念を共有することで群れになれます。
群れとは人と人です。
2人です。寂しくないですね。
孤独じゃないですね。
お酒は人を孤独にさせないんです。
人と人との距離、人と人との間を人間といいます。
他人がいなければ人は人間になれないんですね。
あなたはヒトですか?人間ですか?
みんな人間ですよね。
あなたがいるから、みんなヒトではなく人間でいられるんです。
いいんだよ。君は存在しているだけでいいんだ。
君がいるから僕は人間でいられるんだ。
だから一緒に酒を飲むんだよ。
いいないいな、にんげんっていいな。
2022.12追記
昔の人は土葬でした。有力者は山に埋葬され、里を見下ろす丘や巨石の下に埋められて、山から里を見守る構図が取られました。
昔の人は土葬ですから土に還ります。もちろん他の動植物も土に還ります。土はすべての生物がひとつになる共同体ですよね。
土は生命の痕跡と無数の分解者たちが存在する宇宙のようなもので、そのひと掴みにもイトナミの歴史が存在しています。そこに雨が振り、土を通過して里に水が流れていく。
昔の人は、土や水、それを供給する山に自然と祖先の存在を感じていました。それを人は神と呼んでいますね。だから日本の神は自然と先祖です。それを産土神と祖霊ともいいます。
だから土と水にはその土地のイトナミが溶けて記憶されています。土や水を分析すると様々なものが溶けていることがわかります。その土と水に溶けた有機物(神)と太陽エネルギーの贈与によって米や作物が生まれます。だから米や作物は神からもらうという感覚になるんですね。
僕らの「美味しい」も実はココと密接に関わっているのではないでしょうか。有機栽培や天然物の本質は神から生まれたものであるかどうかが重要なところでしょう。神とは人に限らず土や水になった生命のことです。
神が作物として転生し、それを私たちが食べることで、その味わいから脳内で神を類推して美味しいと感じる。滋味とか旨味とかそういうことなのではないでしょうか。
新米が美味しいとか、秋の味覚とか、日本酒とか、発酵食品とかなんとなくわかりますよね。美味しいということは神やイトナミを類推できることなのだとわたしは思います。
食べ物や料理で神を類推させることができれば、御神酒を飲むことで土地と神を共有して群れになることと同じように、強固な群れと未来をつくる事ができるかもしれません。
空気中の窒素を高圧環境で石油やガスで燃やしてアンモニアをつくり、その窒素化合物で化学肥料を造って作物を育てる。それでも味(舌)は美味しいんですが、脳内での土地やイトナミの類推には至らないので、どうにも直情的でエサっぽい。だから本当の意味でその美味しさは人とは共感しにくく、群れになりにくい。瞬間的な美味しさは、類推よりも先に欲を刺激してしまい、人を家畜にしてしまう恐れがある。美味しいには理由が必要ではないでしょうか。
神から生まれた作物と酒で、仲間と飲み、直り合う祭りをする。
そうしたなかで新たなものづくりをして、未来をつくる。
そんなことがやってみたいですね。
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