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【イトナミコラム2】イトナミの形って知ってる?


コラム第1段「日本酒ってなあに?」で日本酒とは日本人の営みを形にしたモノなのではないかと語りました。

日本人の営みを表す代表的な概念は神、自然、ご先祖様ですね。
ここに私たちが日本人である理由があります。

しかし神や自然やご先祖は概念であって、過去のものです。
私たちの目に見えるものではありません。

これらの概念を共有して群れとなるには、概念を誰にでも見えたり実感できるように具現化する必要があります。

そこで日本人は米と酒を用いて、これらの概念を具現化することにしました。


日本人

米は神とご先祖からの授かりもの。

なぜなら田はご先祖様が開墾して受け継がれたものであるし、田の土と水は神の住む(先祖の骨が埋まっている)山からもたらされた物だからです。

米は神やご先祖様を象徴するもの。

その米に、人の手を加えて造られた酒は、神の人の共同作業によってできた最上の神物(しんもつ)です。

日本酒の仕組み

日本人は稲作と酒造によって、神や自然、ご先祖様を誰にでも実感できるものとして具現化したのです。

米は食べて美味しいし、酒はアルコールの作用で酔っ払うので、体験による私たちへの効果は抜群。

この効果によって神・自然・ご先祖様という概念を各々で共有し、個人を群れとして、種の生存確率を上げてきました。

ホモサピエンスは、他者と概念を共有すると群れになる習性があり、この力でヒト科唯一の生存種になりました。

他のヒト科のネアンデルタール人やホモ・エレクトスでは群れの数は顔が識別できる150人ほどが限界。

対するホモサピエンスの群れは1000人を超えたらしい。
現代では国や金や宗教という概念と科学技術を使用し、群れの数は億を超えています。

ホモサピエンスがネアンデルタール人(ホモサピエンスより力もあって頭もいい)に勝てたのは群れの力だと言われています。

このように、ホモサピエンスの世界では共通概念の具現化に成功すると、絶大な効果を生み出します。

お金、宗教、国など現代の概念は億単位のヒトの数を操ることが可能となります。

今回は概念を具現化した形を見ていきたいと思います。

類推(るいすい・アナロジー)

島根県 三瓶山 男三瓶 女三瓶 


物や形はなんのために作られるのか。
その前提をまず知らなくてはなりません。

そこで大事になってくる言葉が「類推(るいすい)」です。
カタカナで言うとアナロジー。

私たちホモサピエンスは概念を共有して群れになりやすいように、類推という特殊能力を授かっています。

生存確率を上げるための能力として受け継がれた遺伝子です。

類推wiki

wikiの説明だと難しく書いてあって理解不能。

かんたんに日本的に言うと、類推は「あやかる力」、想像力です。
雲の形が人に見えるとか、月にうさぎがいるとかそんな話です。

そして「~に見える」という類推は、言い換えると自分以外の存在に起こっている事象(縁起)を、自分に起こっている事象だと共感することをいいます。

スポーツを見たら興奮した、相撲や格闘技を見たら興奮した。グルメ番組を見て美味しそうだと思う、悲しいドラマを見て涙が止まらない。

幼稚園で誰かが泣いたらみんな泣いてしまうもらい泣き。エロ動画を見たら興奮したなど。

考えたみたら不思議なことですよね。

自分自身には起こっていない出来事だったりフィクションだと分かりきっているのに、あたかも自分に起こっている事のように感情が動いてします。

私たちは、誰かと同じ概念を共有したい。他人を見つけると、自分となにか1つでも共通点がないかと、探してしまうのです。

それは概念を共有して群れになれば、自分の生存確率が上がるからです。初めて話をする人なら、なにか共通点となる話題がないかを探りますよね。

そしてこの類推は対人だけでなく、他の生物や物や音、五感で感じるもの全てに起こります。

棘を見たら怖く感じる、酸っぱいものを想像したらヨダレがでる。子猫を見たら可愛く思う。

なんだか気味が悪い。嫌な予感がする。占いも天文も、形のあるものから類推して占いを行っている。

絵画も赤は情熱、青は冷静な印象を受けることなどもそうですし、音楽ではコードやメロディとして明るく感じる、悲しく感じるなど、意図的に類推を使い分けて表現することが行われています。



鬼や妖怪も類推を利用している

伝統や風習も類推です。

民族学者の折口信夫はこの類推を人の類化性能と呼び、鬼やテングやなまはげ、能の翁、奇祭のオハセやホトなど、なぜその姿形が文化風習として存在しているのかを解こうとしました。

自然界に存在しない形には、私たちに何かしら類推を起こさせる先人の意図が隠されているのです。

私たちは、見聞きしたものを自分のことのように感じ、無意識的にも影響される。興奮を暗示させるものを見聞きさせれば興奮させる事ができる。

悲しみを暗示させるものを見聞きさせれば悲しませる事ができる。嬉しさを暗示させるものを見聞きさせれば喜ばせることができる。

明るい未来を暗示させるものを見聞きさせれば幸福を与えることができる。このように物事で人の感情を操作することができる。

当たり前といえば当たり前ですよね。

具現化する、形にするということは、人に類推させて影響を与え、概念を共有するということです。

形には全て意味があるし、形をつくる者は概念をもたなくてはならない。

概念を類推させるメッセージを形に込めなければ、意味のある物事など生まれないのです。

原始的な概念

国・金・宗教


私たちのもっとも原始的な概念とは何でしょうか。今の代表的な概念は国・金・宗教ですね。

60億の人間が野生動物のような姿にならない理由がここにあります。概念があるから秩序があるということでしょうか。

これらの概念のない時代まで遡ってみたとき、私たちが最初に持っていた概念とはなにか。それは国も金も宗教も持たない他の生物を見ればわかりますね。

最初の概念、それは男と女と子供です。

現在まで残る文化や伝統、古代の旧石器や縄文時代の遺跡を見てみると、男女に関わる表現が多く具現化され、現在までも残っています。


縄文時代の石版 
男を表現するもの…オハセ(左)
女性を表現するもの…ホト(右)

男にあって女にないもの、女あって男にないもの。それが男女を表すものということで、性器の形が男女を表現するものとなりました。

よく見たらわかりますよね。現代的に言うと怒られるので、昔風にオハセとホトと呼んでごまかします。


石棒男=オハセ…棒状のもの、三角△、尖ったものが主に男性表現として用いられる

・石棒…旧石器、縄文遺跡より多く出土する石棒。オハセを模した形状で男を表現するものの基本となる。

今では道祖神だったり、子孫繁栄を願う奇祭でその姿を見ることが出来ます。
・ヘビ・亀…棒状の生物として男性を表すシンボルに用いられる。歴史の古い出雲の神社では蛇や龍を祀る事が多い。

家紋が龍鱗だったり。ヘビの交尾がしめ縄の原型とも言われる。紙垂に当たるものは精液や雷と言われ、日本に限らず、古代人の間でヘビはよく神格化されていますね。類推(アナロジー)の強い古代人から見ると蛇は想像力を掻き立てられる身近な信仰の対象だったんでしょうか。ヘビの姿は男性器、脱皮は生まれ変わり、ウミヘビは未開の大地への案内人、とぐろを巻くヘビは神名火山で、天空から大地に落ちるカミナリもヘビ。虹もヘビ。剣もヘビ。


ヘビの交尾・しめ縄・雷

・水、龍…水は種水を表す。種水は子供や作物などの命を生む子種として男性を表す。龍が水神と言われるのも、共に男性を表すものだから。ヘビも龍も、オハセ、石棒に似てるし、亀は亀頭ということで爬虫類は伸び縮みしますからね。  
・鳥のクチバシ…ツルやタカのクチバシ、雄鶏がオハセを表す 
・テング、こけし…みたまんまですね。鬼や天狗の赤い顔や猿のおしりなんかも、生命や太陽を暗示しているという話もあります。 
・若草、青草、竹…青々とした草や竹はオハセの象徴とされる。

以下は皇室の端午の節句の設え。チマキはオハセを暗示する。柏餅は青々とした姿がいつまでも残るようにと供えられる。

こどもの日の飾り

土偶

女=ホト…丸状、球状のもの、3重丸◎、渦巻き、逆三角▽、フタ股状のもの、鞘状のもの、乳房や大きなお腹、妊娠線など子供と同時に表現されることも多い

・土偶、土器…土偶の形や表面には女性を表す◯、◎、渦巻、乳首、穴が多く刻まれる。女性、子供、植物がイミテーションされ子孫繁栄、豊作が暗示されている。

・股、穴、松…松の葉が二股、穴はホトに見えることから女性を表現する時に使われる
・大地、割れ岩…命を注ぐ男性の種水に対して、女性は命を育てる大地(土)で表現される。山、受け皿、土俵などの受けを暗示させるものも女性。
・鏡や銅鐸
・赤=血
・山や土俵(大地)に女性が入ってはいけないというのは、山や土俵が女性属であり、女性が入っても何も起こらないから。雪女とか山姥とか山の神は女性だったりするし、国や農耕が強くなると男になったりする。アナロジーな社会では女性の方が大事にされ、コッカテキな社会では男性が強くなる。・貝…貝の身がホトに似ていることから。以下は皇室のひな祭り。掛け軸にはまぐりが描かれ、はまぐり、サザエがお供えされる。紅白も女と男で血と精液。


ひなまつり

・月…月の満ち欠け、潮の満ち引きが女性に類推されるがその謎は多い。


子供(男+女)

道祖神

子供は男と女を同時に表現したり、まぐわいを表す✕、渦巻き、◎、3重丸で表現される。3重丸はホトから出てくる子供の頭とも言われる。○が2つあったら乳首か卵巣か精巣。

・まぐわい(子供)を表す形…男女の比喩である鶴と松、鏡餅(3重モチ、松葉)、門松…竹(棒)と松、杵と臼、相撲…力士と土俵など


土器

・縄文土器…両面にカエルが描かれることがある。カエルが子宮に似ていること、そして子供はお腹の中で魚→カエル→胎児の順に成長すると古代人は思っていた可能性がある。羊水の中で生きられるのは魚とカエル。破水してそこからでたらヒトになる。新生児も首が座っていないのでカエルに似ています。

狩猟をしていた古代人は捕らえた獲物を解体するので、子宮の形も胎児の形も知っています。現代人の私たちは魚や爬虫類、両生類といったカテゴリを知っているからそれらを分類してそう呼んでいますが、そのようなカテゴリをもたないアナロジーの強い古代人にとっては、魚もカエルもヒトも同じ生物として捉えていたんじゃないかとも想像できます。


勾玉

・勾玉…島根県玉造で有名なやつ。胎児の形をしており、切れ込みは魚のエラだと言われてる。出雲と新潟の糸魚川の交流、出雲王国が負けて新潟に向かうタケミカヅチ、そこから安曇野、諏訪、大和に向かう流れは歴史的にも面白い。

島根宍道の珍宝さん

棒と割れ石。シンプルに棒と穴
奇祭とよばれるオハセとホトによる子孫繁栄のお祭り
道祖神の夫婦像(長野)

奇祭
鶴と松
リンガとヨニ

日本画の定番、鶴=くちばし(男)と松=陰毛(女)
餅つきがなぜおめでたい? 臼(女)と杵(男)と餅(子)

四股を踏む=まぐわい

相撲の四股 力士(男)、土俵(女)、四股(まぐわい)

かどまつ。竹(男)、松(女)

鏡餅 上から見ると三重丸。餅と草はホト、みかんは子の頭

都市伝説のようですが、あながち間違いでもない気もしますね。


この世の全てはオハセとホトで出来ているかもしれない。

男、女、子供は三宝といわれ、三宝を表現することで子孫繁栄を類推させる「おめでたいもの」として多く残っています。日本人の象徴をなさっている皇室行事の飾りを見てもその姿を随所に見ることができます。

ミシャグジ、金剛様、荒神、山神など性器を祀ることは不思議なことではありません。純粋に子孫繁栄を願う思いが形になっただけです。

海外もだいたい一緒です。人種が違ってもの結局は同じホモサピエンスですから形が違うだけやってることは同じです。

古代ではかなり直接的だったオハセとホトの表現も、時代が進むにつれて巧妙に隠すようになりました。

自然科学が発達して数値信仰になってからは比喩表現から読み取る力が弱まり直感では類推の発見もその意味も伝わりにくくなりました。

僕らは類推(アナロジー)→自然科学(数字)という順序を辿ってきた。それは狩猟採集(循環)→農耕・金(増殖)と概念が変わったからですね。

文化や過去を知るということは類推の目を持つということが重要になってくるのではないでしょうか。

まとめ


遺産や文化財をオハセとホトを探せゲームだと思えば物事の本質が割と見えたりします。歴史を超えて評価されるものには必ずメッセージが隠されているのです。

先人たちが概念を形にし、それを文化や伝統として後世に残すことで、私たちの行動をコントロールしているとも言えますね。

先人たちのメッセージを素直に受け取れる目と頭を持つこと、アナロジー的目線を持って物事を見てみると、世界が面白いもの変わるように気がしてきます。

こんなことを調べていると、私もついつい造っている日本酒にメッセージを込めたくなってしまいます。

酒造りへの先人への感謝、御神酒マインド、五穀豊穣や子孫繁栄への願い、無窮天穏、KODANE、イトナミミードにアナロジー詰め込みまくりです。

それを感じられるアナロジー思考の高い人にはなかなか面白い酒になっているんじゃないでしょうか。

「営み」という概念を、酒造りで表現して、飲んだ人に悠久の営みを類推させるものが、私の造る理想の酒の姿です。

もちろん美味しいだけを楽しんでもいいんです。

嗜好的な面がありつつ、さらに類推を読み取れるような人にはとっては、メッセージ性に富む、美味しく楽しい酒になっているんじゃないかと思います。

どちらでもあり、どちらでもないことがアナロジー的醸造法には大事なことなんです。

2021.9.3 小島達也

つづき

⇨イトナミの形って知ってる2 世界はヘビで満ちている



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