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【インタビュー第2回】 愛知県一宮市 酒のきまた 木全辰夫さん

2020年06月30日

愛知県一宮市 酒のきまた


酒のきまた外観


天穏にまつわる人たちの第2回目。


今回は愛知県一宮市で地酒屋を営む酒のきまた 木全辰夫さんを紹介します。


愛知県一宮市は私の地元で、酒のきまたは私が20歳頃から通っていた酒屋さんです。


酒のきまたの品揃えは非常にバランス良く、吟醸酒から燗酒まで多くのお酒を取り扱い、日本酒の世界の広さを表現されているお店です。


木全さんのバランス感覚の良さと、お酒に対して肩肘張らない姿勢がとても心地の良いお店です。


一般消費者だった私が天穏に修業に入り、それがきっかけで木全さんが天穏を取り扱ってくださるようになってからは、お互いに理想のお酒を話し合う関係となりました。


酒のきまたに通い、木全さんと酒談義をしてきたことが今の私の酒造りに大きく影響していることは間違いありません。


そんな酒のきまた 木全辰夫さんにお話を伺いました。


酒のきまた 店主 木全辰夫


昭和八年から私のおじいさんが木全商店という屋号で商売をはじめました。

お酒と調味料が主体で食品も少し扱う典型的な昔ながらの町の酒屋さんでしたね。御用聞きをしてお醤油や味噌、ビールやお酒を配達するような。

そして私の代になったときに木全商店から「酒のきまた」にかえました。


大阪や愛知県で酒屋修行をして、いろんなお酒を覚えて家に戻ったんです。

酒専門店っていうか、かっこいい店にしたいと思って。

木全商店は全然そうじゃなかったから笑。


酒のきまた店内。高品質な地酒・焼酎・ワイン・調味料を取り扱う。


ワインが好きなこともあって、最初はワインの専門店にしようと思ったんですね。ワインの勉強をして、品揃えも豊富にして。でもあんまり売れませんでしたね笑。


そんな時に日本酒業界は久保田や越乃寒梅などの新潟酒ブームになっていて、それから新潟に行って八海山や色んな蔵に行ったんです。でも全て玉砕して取り扱いできずで…。


そんな時にある本で佐賀の東一さんを知って、サンプルを送っていただいたら、それがすごい美味しくて。それがきっかけで吟醸酒に目覚めましたね。


それから色々な吟醸蔵と取引するようになりました。当時は今ほど香りも華やかではなくて、ほどほどの香りで良い酒がありました。


あとは愛知県の義侠さんのお酒が欲しかったので何年か通いました。


そうこうしていると燗酒向きのお酒を造る生酛のどぶ・睡龍の加藤杜氏が店に何度か来てくださっていろいろ話して取引が始まって。もともと冷酒も好きだし、燗酒も好きだったから、そこで冷酒も燗酒もやるようになりました。


前はけっこう自分に自信がなかったんで、色々悩んで。

今のスタイルを確立するのに時間がかかりましたね。


吟醸酒専用の大型冷蔵室
お酒には木全さんのコメントが書かれていてとても選びやすい。



酒のきまた 木全辰夫 × 天穏 杜氏 小島達也


木全:店をリニューアルした2003年以降、天遊琳さんと出会ったり、竹鶴さんと出会ったり、香りが強いお酒よりも穏やかなお酒を好むようになりました。

そのころに小島さんが来られるようになりましたね。


小島:そうですね。いろいろな吟醸酒を買っていましたね。日本酒って色々あるんだなと思って。いつだったか木全さんが毎月出している「酒のきまた便り」で竹鶴さんに行った旅行記を書いていて、そこから竹鶴さんが気になって飲んでみると、吟醸酒とは全く違う無骨ま味わいが美味しく毎日のように飲んでいましたね。


木全:若い人がきたら普通は吟醸の冷蔵庫の方に行くのに、いつも竹鶴を買っていくから珍しいお兄さんがいるなって思っていましたよ。


小島:そこから竹鶴さんに魅了され、名古屋の丸又商店さんでも竹鶴の取り扱いがあることを知って、丸又商店の横地さんにレクチャーを受けながら秘蔵の竹鶴(小笹屋の生酛)を飲ませてもらって衝撃を受けました。こんなことが日本酒で表現できるんだって、直ぐに蔵人になろうと決心しましたね。

そこから横地さんに竹鶴の石川杜氏を紹介してもらい、天穏前杜氏の岡田さんを紹介していただいて天穏の蔵人になりました。

杜氏・小島 酒のきまたにて



そしてひと造り終えた後、木全さんのところに行って、「実は蔵人になったんです。」って、造った酒を持っていったんですよね。


木全:そうでしたね。それから取引が始まりましたね。当時の天穏は柔かいんだけど、燗酒寄りで、熟成しないと上がらないようなお酒でしたね。


小島:ほっこり系の酒でしたね。あれはあれでいい酒でした。

その後、天穏で4年蔵人やって、天遊琳さんで数ヶ月手伝って、愛知の青木酒造さんに移籍して、1年目が終わった時に天穏から杜氏の話があり、出雲に戻ることになりましたね。


その頃には天穏が燗酒一辺倒なのはどうかって話をしていましたよね。

もっと違う方向性があるんじゃないかと。


木全:そうですね。出雲に行くとき、小島さんがどんな酒を造って欲しいかって聞いてくれたんですよ。その時に綺麗な酒が良いねと。清らかで御神酒みたいなイメージのって。


だいたい香りが強かったり、無骨だったりのお酒が多くて、ちょうど良い中間のお酒がなかった。体にスッと入ってくるような綺麗なお酒が意外となかったんです。


そしたらいきなり1年目から齋香とか普通の白ラベルでも綺麗な酒を造ってきて驚きました。


小島:燗酒は一般の人には飲みにくいこともあるし、それを緩和するテクニックは難しくて広がりにくい。香り系も飲みやすいようで実は甘く重く、飲みにくいものも多い。

日本酒が冷酒と燗酒で二極化してる。そんな状況がずっと続いていますね。


好き嫌いがあるということは冷酒も燗酒も同じなのかもしれない。冷やでもない、燗でもない、また別の価値観を持った酒を造ろうということはずっと考えていました。

冷酒派も燗酒派もビギナーも玄人も、誰もが受け入れられるバランス良く綺麗な酒ですね。

木全さんと電話で話して飲んでそれを確認しあっていましたね。木全さんは冷も燗もバランス感覚の良い人ですから。


木全:振り幅が広いですからね。冷酒も燗酒もワインも赤も白も強いも弱いも関係なく、バランス良く綺麗で芯があればと思っています。小島さんと出会ってからそれがより強くなってきました。


小島:冷酒と燗酒の真ん中というか、冷酒でもあり、燗酒でもある。それを模索していって今があります。当時思っていたことがようやく形になりました。

時代も変わってきて、今はこの「どちらでもあること」を理解してくれる人が増えてきましたね。

今まで小島が何を言ってるかよく分からなかったけど、今の天穏を飲んで、そういうことがやりたかったのね。って。


きまた便り 齋香 27by



木全:小島さんの杜氏初年度に造った齋香(生もと純米吟醸 佐香錦)を飲んだ時に感動しました。「あーこれこれ。俺が欲しかったのはこういう酒だって」、ほんとに清らかで、ちゃんと味があって。すごかったですね。感動が。お客さん全員にこれ買って!って言ってましたね笑。正月にこれを飲んで!って。そうしたら、みんな買ってくれて美味しいって言ってくれました。頭でっかちじゃないお客さんが多いから素直に感じてもらえて良かったです。


小島:木全さんは家で飲まれる大人のお客さんが多いですもんね。誰でも飲めることが大事なので、そういうお客さんの反応が一番気になるとこでしたからとても嬉しかったです。


木全:でも大変だったでしょ?今はもうそんな事ないと思うけど、清らかな酒だと分かりにくい面があるから理解されにくかったんじゃないかな。


小島:そうですね。最初は綺麗すぎるとか味がないとか物足りないとか色々言われました。冷酒や燗酒に慣れている人は、前味に強い味や香りのインパクトがないと物足りないと感じてしまう事がある。本当はそこから味わいが上がって深くなる。しかし前味だけ見ているとこれを捉えるのは難しい。

そのあたりを考慮して麹を3日麹にするようになってからは後味が強くなり、薄さに関してほとんど言われなくなりましたね。

綺麗で美味いが高次元でまとまりました。


木全:やっぱり体が感じるがまま。天穏は「あー、飲みやすくて美味しいね」ってそれだけで完結できる酒ですね。天穏は。体が勝手に感じてくれる。どんどん飲めちゃうからね天穏は。そういう蔵も少しだけ出てきてました。


小島:冷酒や燗酒というジャンルじゃなくて、心地の良いお酒だったり、自分なりの表現をする蔵が必ず増えてきますよね。その時にもう一度、吟醸酒の流れが来ると思います。


木全:本当の吟醸造りね。涼しいとか優しいとか。それを紐解いて実践しているのが小島さんですね。色々あると思うけど、睡龍の加藤さんとか竹鶴の石川さんとか、目指す方向にブレない人の酒は飲んでても面白いね。


小島:そうですね。これからは何を表現するかです。私はもう究極に美味しいことや、誰か一人のための酒は興味がなくて、僕ら同じ仲間だよねって確認しあえる様な、僕らみんなのための酒が良いと思っています。誰でも飲めるとか、日本人だったら、人間だったら美味いと思ってしまうようなお酒の設計をしています。

どっちかが好きで、どっちかが嫌いだと一緒に飲んでも仲間になれないかも知れない。

このことは木全さんに通っていたから分かったんだと思います。ルーツですね。


木全さんのイラストがたのしみ


木全:いやいや、大げさだって笑。お役に立ててよかったです。

   

小島:あとはバイトしてたディスカウントの酒屋さんにも大きな影響を受けてますね。地酒専門店の木全さんに通いながら、3リットル1000円のパック酒が大量消費される現実も何年も見てたし笑。

20代でいろんな酒の姿を見て勉強になりました。


木全:これからは好きなワインもウイスキーもっとやりたいですね。ウイスキーは全然無いけど、ワインはバックヤードに大量にありますし。共通点は疲れずにスーッと飲めるやつですね。ジャンルは関係ありません。有名、無名に関わらず。


小島:ジャンルなんか関係なかった。天穏もワインも同時に飲んで、味は違うけど価値観は一緒だよねって言える様になるといいですね。


木全:僕が美味しいな、良いなって思ったものをお客さんと共有したいですね。食べるものでも、音楽や車でもね。


小島:はい、そのためにも酒のきまた通信(酒のきまた毎月のお知らせ)をwebに公開してください。


木全:はい、ホームページも新しくしますね。


きまた便り 天穏酒蔵訪問記



天穏にまつわる人たち第二回は愛知県一宮市の「酒のきまた」木全辰夫さんでした。


インタビューしなくても記事を作れるくらい普段から話してお世話になっている酒屋さんです。


これからも成長していく姿を見てほしいですね。


貢献できるように天穏一同、頑張ります。



酒のきまた

〒491-0852 愛知県一宮市大志1丁目8−8

0586-72-3398

酒のきまたホームページ


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