【2021年7月発売】出雲薬草酒 神名火(かんなび)・火之護(ひのもり)
天穏 杜氏・小島×出雲漢方研究会 薬草酒の開発
2021年、島根大学医学部の先生、生薬研究科、バーテンダーで構成される出雲漢方研究会の依頼を受け、出雲薬草酒「神名火(かんなび)」「火之護(ひのもり)」の開発を行いました。今回はその製造過程をご紹介します。
はじまり
私、天穏杜氏の小島は、先人から伝統技術を継承して出雲杜氏となり、酒を造り続けるなかで、ひとつの結論に達しました。
「酒とは人々の営みを促進するもの」
私は日本酒を愛する人だけではなく、あらゆる人の営みを促進させる、営みの酒を造らなくてなくてはならないと考えるようにました。
その結果として生まれたプロジェクトが、清酒以外の酒を造るイトナミブルワリーです。
私はそのイトナミブルワリーのリキュール開発のひとつとして、薬草酒の開発を模索していました。
薬草酒は、日本酒を飲まなくなった人でも、日々の健康のため、寝酒として酒を飲むことが多々ありますね。
しかしながら、健康を売りにしている薬草酒、薬草リキュールでも実質は砂糖・糖液が多量に含まれたリキュールでることを私は杜氏の立場から知っています。
薬草、漢方が入っていても、多量の砂糖が入っていては、本当に健康に良いのかどうか…私には判断できません。
野菜ジュースや栄養ドリンク、エナジードリンクと同じ罠がそこには潜んでいるのではないかと考えてしまいます。
日本酒は飲めないけど、健康のために薬草酒を飲む。本物の健康酒、薬草酒を飲みたい人を救う。
これはまさしくイトナミブルワリーのするべきことだと考え製造を進めました。
参考
エキス分=糖分…糖液、ブドウ糖、みずあめなど
養命酒 エキス分29度
シャルトリューズ エキス分23度
ドランブイ エキス分35度
カンパリ エキス分19度
イエーガーマイスター エキス分15.7度
出雲薬草酒=エキス分7度…砂糖不使用。エキス分は全量、国産完熟生はちみつ。
出雲の薬草酒 雲州人参とセッコク
薬草酒の開発を考える中、出雲のとある会社の社長から「やんごとなきお方が、出雲の薬草を使った出雲薬草酒を求めている。開発できないか。」と相談が舞い込んできました。
これは勅命。早速、動かないといけないということで、出雲固有の薬草を使った出雲薬草酒のプロジェクトをスタートしました。
出雲の薬草・漢方を調べて行くと、出雲はかつて薬草の一大産地であり、古来より伝わる2大生薬があることがわかりました。
かつて松江藩を救ったと言われるほどの高麗人参の産地だった島根県、その高麗人参は雲州人参と言われ、今も世界のトップブランドだそうです。
その薬効は世界に轟いています。しかし現在では生産量が激減。島根県大根島のみの生産となってしまっています。
園芸業界では有名なセッコク。しかし一般には聞き慣れない、見慣れない、セッコク。
wikiを見てみると、「セッコクは薬用にされることから、記紀神話の医療神である少彦名命(すくなひこなのみこと)にちなみ、少彦薬根(すくなひこなのくすね)の古名も持っている。」と書いてあります。
少名彦命(スクナヒコ)は出雲の神様として知られおり、小名持とよばれた王様だったり、ヱビス様だったりする、オオクニヌシに次ぐ出雲の大切な神様です。
そんな出雲の特別な名前がつけられたセッコクは、出雲国風土記にも登場し、出雲の重要な生薬として重宝されたとされています。
出雲固有の薬草酒、出雲薬草酒を造るには「雲州人参」、「セッコク」が必要だということで、この2つの入手を重要ミッションとしてスタートました。
出雲漢方研究会との出会い
雲州人参、セッコクを入手すべく奔走している中で、偶然にも出雲漢方研究会と出会いました。
出雲漢方研究会は島根大学医学部漢方外来の医師 宮本先生、生薬研究家で医大生の片岡さん、バー・ストーンリバーの石川さんが主体となっている会で、彼らも薬草酒の開発を計画していました。
私は酒を造ることが出来ても、医師や薬剤師ではないので、薬草・漢方の効果に対してエビデンスを担保できません。
出雲漢方研究会は薬草・漢方に対して医師の立場でエビデンスを持てますが、酒を造る事はできません。
両者が合わされば、出雲薬草酒の薬草・漢方の効果に対して根拠を持ち、なおかつ美味しい出雲薬草酒ができる。
両者の夢を実現すべく、出雲薬草酒の共同開発をする事となりました。
島根大学医学部 医師の宮本先生と、弟子の片岡さん
この出会いで薬草・漢方集めは一気に加速。
雲州人参は島根大根島の由志園さんより、他の薬草、漢方は出雲漢方研究会から調達。
セッコクに関してはものすごく苦労して、個人が栽培している原種のセッコクを入手することができました。
雲州人参
セッコク
出雲薬草酒つくり
生薬の目処が立ち、いよいよ開発のスタートです。
まずはそれぞれの生薬がどの様な個性を持ち、どのくらいアルコールに成分が抽出させるのかを知らなくてはなりません。
まずはすべての生薬を単独で漬け込みます。
ベース酒は私がつくっている天穏の酒粕を使った粕取焼酎(単式蒸留)です。
漢方を漬け込むベース酒でも妥協しません。純米吟醸クラスの酒粕を使用した焼酎を使いました。
クオリティと味わいのためも連続蒸留の醸造アルコール(俗に言うホワイトリカー)は使いません。
焼酎に雲州人参、紅蔘、セッコク、乾姜、桂皮、陳皮、茴香、茶、棗、枸杞子をそれぞれ少量ずつ漬け込み、テストをしました。
漬け込んだ酒を杜氏の舌と鼻でブレンドし、数多の組み合わせの中から、ついに理想的な生薬の配合を導き出しました。
薬草酒として効果がありそうな重厚な味わいと苦味、それなのに爽やかで飲みやすい。
薬草酒として、一流の酒として、どちらでも味わえる配合を見つけました。
そしてリキュール類はエキス分(糖分)が2度以上必要です。
前述のように、リキュール類には多量の糖分が含まれているという事実があります。
私はこれが味としても、健康の面でも、とても嫌いです。
私のつくるリキュールには糖液や水飴等の単糖類は使いたくありません。
そこで使用した糖分は国産の完熟生はちみつです。
イトナミレモン・イトナミミードでも使用している静岡産のガチはちみつです。
エキス分7~8度で優しく嫌味のない控えめな甘みを加えました。
実践
理想の配合を見つけ、製品版の製造開始です。
同時に出雲漢方研究会のクラファンもスタート。
満額とはいかなかったようですが、なかなかの金額が集まりました。
製品版もそれぞれ単独で漬け込みました。見ていただく通り、とても贅沢な漬込み量です。
雲州人参
出雲市斐川 西製茶所の緑茶
約二ヶ月の漬け込み期間を経て、引き上げました。
生薬にものすごく酒が吸われました…。100L漬けたら30Lほど生薬に持っていかれます…。
そのおかげか生薬がしっかりと焼酎に抽出されています。
金では買えない貴重なセッコク。今回は矯味目的で少量だけ。
オリを抜き、はちみつを加えて、それぞれを調合。
杜氏のテイスティングと微調整をして瓶詰め、めでたく完成です。
雲州人参・セッコク入りの「神名火」、人参なし、セッコクなしの「火之護」の2パターンつくっています。
造り手(味)としては断然、神名火推しです。
本当に苦労しましたが満足行くものが出来ました。
飲み方
薬草酒としてだけではなく、本物の酒として造っていますので、いろいろな飲み方に対応しています。
元が良ければどんなスタイルでも崩れることはありません。
ストレート、ロック、ソーダ。
ご購入いただくか、ストーンリバーでご賞味下さい。
※天穏での取り扱いはもうしばらくお待ち下さい。
出雲薬草酒は、酒として高品質で低糖分、西洋医学と漢方学の専門医師が監修した意味のある酒になりました。
本気で造りすぎて値段は高くなってしまいましいたが…。
この薬草酒が多くの人の営みにつながることを期待しています。
薬草酒を広めるため、今後も薬草、漢方を使った新製品を出雲漢方研究会と開発していきますのでよろしくおねがいします。