出雲杜氏の山陰吟醸造り

出雲杜氏

 

山陰吟醸造りとは天穏に継承される出雲杜氏流の吟醸造りのことを言います。

天穏では山陰吟醸の名人と言われた長崎杜氏・坂本杜氏の師事を受け、その技術と意志を受け継ぎ、また、他の様々な杜氏や蔵人の技術が蔵には受け継がれており、機械化を進めずに職人の歴史と継承を感じられる酒造りを行っています。

 

山陰吟醸造りは御神酒造り

隠岐


山陰吟醸造りは通常の酒造りに比べて遥かに時間と手間がかかります。

大量生産や機械化、時間短縮で造ることのできる普通酒に比べ、山陰吟醸は限定吸水、突きハゼ、長期低温発酵醪など人の技術と時間を必要とする手法です。

 

日本酒は本来、神や自然、ご先祖様から頂いた大切なお米に対し、感謝の祈りを捧げるために造られる酒、御神酒(おみき)でした。

御神酒は人の祈りや願いを込めたもの。手間ひまをかけること、大切にすること、洗練させること、祈ることです。

 

杜氏や蔵人が技術と手間と時間を惜しまず山陰吟醸酒を造る姿はまさに、神に感謝の祈りを捧げている御神酒造りと同じことではないでしょうか。

山陰吟醸造りから生まれた酒のその味わいの清らかさや力強さは、私たちに神に祈りが届いたことを感じさせるものでした。

 

私たちは山陰吟醸は御神酒だという気持ちで酒造りをしています。

 

 

山陰吟醸造りの技術内容
 

米

吟醸

 

 

・米の中心のデンプン比率の高い心白部分を酒にする。米の外側のタンパク質・脂肪の多い部分を粕にする。

 米の内側を溶けやすく(やわらかく)、米の外側を溶けにくく(かたく)します。そうした米を蒸して「外硬内軟(がいこうないなん)の蒸米」をつくります。

 外硬内軟の蒸米で麹を造ると「突きハゼ麹」という状態の麹になります。

 この米の表面が硬く中が軟らかい「外硬内軟の蒸米」と「突きハゼ麹」で酒を仕込むことが山陰吟醸造りの基本的な部分となります。

 また米の表面に水分が少なく硬いということは、雑菌が付着しても繁殖が抑えられるため雑菌由来の酸度も抑えることが可能です。

 

 

 

例:無窮天穏 天雲(生もと純米吟醸60%)のもろみ経過簿

 

 

もろみけいか

・ゆっくり溶かして酵母の溶解を抑える。

 米の内側を溶けやすく(やわらかく)、米の外側を溶けにくく(かたく)することで、米がもろみの中でゆっくり溶けるようになります。

 米がゆっくり溶けると発酵熱が抑えられて低温でゆっくり発酵します。 そうすると酵母は低温環境で発酵し、良い香り(吟味:ぎんあじ)を出してくれます。

 

 また、米をゆっくり溶かせばアルコールもゆっくり生成するので、酵母の溶解を極力防ぐことが可能です。

 酵母は高いアルコールにさらされると溶けてしまい、酵母の体液(アミノ酸)がもろみに溶け出てしまいます。

 この酵母由来のアミノ酸は、酒の劣化(老ね)の主な原因物質となることが多いと言われています。

 

   山陰吟醸吟醸造りでは酵母溶解由来のアミノ酸が少ないので、生酒も新酒も熟成酒も綺麗さを保ち、非常に飲みやすい酒質になります。

 米の溶解をコントロールするには、的確に原料処理された蒸米と突きはぜ麹、そしてそれらを適切に発酵させる温度管理が必要です。

 

・米が溶けた分はしっかり発酵させる完全発酵

 米のデンプンが麹の酵素によって糖に分解され、その糖を酵母がアルコールに資化します。

 山陰吟醸では米から出た糖を使い切るまで発酵させる手法、完全発酵を行います。

 

 完全発酵させることでお酒は糖や未分解成分が少なくなり、なおかつ醪熟成によって味わいの調和と、アルコールと水の会合(なじみ)が起こります。

 そのため爽快に飲みあきせずに飲むことができます。糖分が少ないことで酒の劣化が抑えられ長期熟成も可能になります。

 

 生もと吟醸の場合はアルコール耐性が高く、酵母量が少ないので、醪末期もアミノ酸(酵母の体液)が増えにくく、清らかな完全発酵が可能です。

 山陰吟醸における完全発酵は、米を溶かしたぶんだけきちんとゆっくり発酵させるため、低糖度、低酸、低アミノ酸となります。

 

 糖化先行の普通酒醪では糖分は少なくても高アルコール、多酸、多アミノ酸で醪日数が短く不調和で老ねやすくなってしまうため注意が必要です。

 吟醸造りの完全発酵と普通酒の完全発酵は全く別物です。

山陰吟醸の味わい

 感じ方2

 

 雑味のなさ、米表面のタンパク・脂肪の少なさ、雑菌由来の酸の少なさ、酵母溶解のアミノ酸の少なさ。

 これらが合わさることで、誰にとっても飲みやすく、劣化も少ないため新酒から熟成にも耐え、どのように飲んでも美味しく飲むことができます。

 舌へのストレスも少なく、酒の濃度がほどよいため、飲み疲れしにくいことも特徴です。

 また余韻が長くなるように設計しているため、飲み進めるごとに余韻が体にたまり、時間に作用していきます。

 

 このことから山陰吟醸の酒は当時、涼しい酒、純米酒と呼ばれ、「酒は純米、燗ならなお良し」という言葉も生まれました。

 当時の純米酒は普通酒(三増酒・アル添)ではない酒、吟醸酒を意味していますので、純米は現代の純米吟醸・純米大吟醸のことを言います。

 

 「酒は純米吟醸造り、冷やもうまいし、燗ならなお良し」が本来の意味合いと言えるのではないでしょうか。

 出雲杜氏の名人たちはこの様な解釈で吟醸造りに   

 

補足

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