天穏 そやし水もと 

令和2年度醸造より、そやし水もと(菩提もと)への挑戦をしました。

水もと製品

水もと

濁りバナー

 

kodane2

 

 

はじめに

水もとのきっかけは岡山の酒蔵、御前酒を醸す辻杜氏との出会いです。

辻杜氏が天穏に見学に来てくださり、その場で酒造に向かう姿勢や考え方を共感し合いました。

話の中で菩提もとの作り方を丁寧に教えて下さいました。

 

作り方を知ったら行動します。

辻本店さんに向かい、そやし水の仕込みを実際に見て、蔵で試作を重ね、今回の製品販売に繋がりました。

 

御前酒さんへ そやし水仕込み 見学

御前酒

御前酒

水もと(菩提もと)とは

水もと(菩提もと)…乳酸発酵した水で酒(もろみ)を造ること

お酒は酵母が増殖すること(酵母発酵)によって造られます。

その酵母が安全に純粋に増殖するためには酸性環境が必要です。


酵母が増える際に酸性環境がないと酵母だけでなく他の微生物も同時に増えてしまい、酵母の増殖が阻害されてしまう可能性があります。

その酸性環境を作る工程を酒母造りと呼び、速醸、生酛、山廃など様々な方法で酵母が安全に発酵できる酸性環境が作られます。

速醸酒母は人工乳酸を水に入れることで酸性環境をつくり、生酛酒母や山廃酒母ではもろみ(水+麹+蒸米)を乳酸発酵させて酸性環境をつくります。

近年では白麹のクエン酸で酸性環境を作るなど、近年の酒造りはどのように酸性環境を作るのかがトレンドとなっています。

 

今回の水もと(菩提もと)は水を乳酸発酵させることで酸性環境をつくる製法です。

酸性

 

酒母

 

そやし水

水を乳酸発酵させた状態をそやし水と呼びます。
水に生米を入れることで米の糠に付着した乳酸菌が水の中で増殖して乳酸発酵します。

乳酸発酵した水は酸性となり雑菌が増殖できない状況となります。

そやし水を仕込み水の代わりに使うことでもろみを酸性状態にすることが可能です。

 

しかしながら、そやし水を仕込んだ直後の初期段階は乳酸発酵が始まっていないため、非酸性の無防備状態からのスタートとなります。

初期の無防備状態のそやし水の中には野生酵母、産膜酵母、その他の雑菌類がうごめいています。


乳酸発酵が始まり乳酸菌が増えて酸性環境に近づくにつれ、これらの雑菌類は淘汰され、最終的には強い酸性環境の純度の高いそやし水が出来上がります。

そやし水の中には産膜酵母、野生酵母、その他多様な菌類の生きた痕跡が残るため、自然発酵の不安定なニュアンスが残ります。

生命の営みを具現化したものが酒であると考える私にとって、多種多様な生命の痕跡を酒の中に残すことの出来るそやし水はとても魅力的な酒造方法に感じます。

 

水もと

米の投入

浸漬

そやし水初期 表面に野生酵母が見える

初期

そやし水後期 白濁して強い酸臭がする

後期




そやし水キムチ・そやしぬか床

乳酸発酵したそやし水は、乳酸菌の働きを活用している漬物のスターターとしても利用できます。

野菜を入れればそのまま乳酸発酵しますし、糠をそやし水で練ればすぐにぬか床が完成します。

塩や出汁、スパイス類を入れて味を調整すればすぐに使用可能で、誰でも即席で漬物マスターになれます。

 

そやし水キムチ

水キムチ

 

そやしぬか床

ぬか床

ヌカつけ

 

2パターンのそやし水もと酒母

今回、出来上がったそやし水を使用し、酵母添加と酵母無添加の2パターンの酒母を造りました。
どちらも初めての経験でしたが、日頃から生酛、山廃と高難度な酒母作りをしているので問題なく育成できました。

 

1,酵母添加のそやし水もと

添加

出来上がったそやし水を煮沸して乳酸菌を駆逐して、乳酸菌、雑菌のいない状態にします。
その後、アンプル酵母を添加して通常の速醸酒母のような経過を辿らせました。相性の良さそうな6号酵母を選択しました。

酒母日数18日。

 

製品→そやし水もと 純米にごり酒

 

2,酵母無添加のそやし水もと

無添加

出来上がったそやし水を煮沸して乳酸菌を駆逐、その後、麹と蒸米を合わせ、山廃酒母と同じ経過で低温でゆっくりと糖化を促して蔵付酵母での発酵へと導きました。

酒母日数35日。

 

製品→そやし水もと 純米酒KODANE2(どぶろく)

 

そやし水の煮沸工程

煮沸

泡面。速醸や生酛に違いはなかった

酒母

そやし水もとの酒の味わい

ラベル

 

以上のように、酵母添加のそやし水もと、酵母無添加のそやし水もとを造り、清酒(加水一火14%)・にごり・どぶろくの3種類の製品が誕生しました。
いずれも今までの天穏にない味わいが表現され、どれも非常に個性的なものとなりました。

それぞれに共通しているのは、強い乳酸の味わいと酸味です。
バタースコッチ、バターキャンディーのような厚みのある乳酸味とクエン酸系のやや鋭角な酸が感じられます。


また、ナチュールワインにみられるような野生酵母系の不安定な香りがあります。
崩しや外しの要素として味わいに効果的に影響しています。

これらのそやし水もとの特徴と、天穏のやわらかさと3日麹の深みが合わさって、とても特徴的な酒になっています。
天穏のイメージを強く持っている人ほど驚き感じる味わいでしょう。


近年、酒造りが高度になり、このような不安定さの表現ができなくなっていたので、いい刺激になりそうです。

R2BYそやし水もとでは、もろみの経過が早く、醪日数25日とまともな吟醸経過(35日超)をたどることが出来ませんでしたので、
そやし水×山陰吟醸の姿を見るのはまた来年の課題となりました。
味わいのポテンシャルが高く表現の幅が格段にひろがるので、今後も取り組んでいきたいと思います。

 

印象