出雲杜氏について

出雲杜氏

写真左 坂本俊(大谷酒造 鷹勇 元杜氏) 写真右 長崎芳久(板倉酒造 天穏、藤井酒造 龍勢・宝寿、土佐鶴、美人長などで杜氏)   

2019.5.24 酒本商店 酒本氏(左上)と天穏 現杜氏 小島(右上) 長崎宅にて酒談義

 

出雲杜氏

現在、出雲杜氏組合に所属する杜氏を出雲杜氏と呼びます。組合員約30名、杜氏約10名。

酒造会社では奥出雲、簸上正宗、誉池月、國輝、李白、豊の秋、月山、ヤマサン正宗、千代むすび、山陰東郷、十字旭日、出雲富士、天穏などが出雲杜氏による酒造りを行っています。

 

出雲杜氏組合の前進は古く明治3年から4年に芽生え、大正5年秋鹿杜氏組合の結成。

14年には出雲杜氏組合と名称を改め、昭和14年には赤名(雲南)杜氏組合と合わさり、現在まで100年以上続いていおります。

以前は農業や漁業従業者が閑散期の冬に酒屋に勤める出稼ぎ杜氏が主流でした。

現在ではほとんどの出雲杜氏が社員杜氏として酒造り、営業など幅広く活動しています。

 

出雲杜氏の里である佐香神社での醸造祈願祭、醸造感謝祭の神事。

出雲杜氏自醸酒品評会の開催、各地への研修会や講習会など活動を行い組合員の酒造技術の向上に努めています。

 

 

出雲杜氏の里 佐香神社(さかじんじゃ) 

佐香神社

 

島根県出雲市小境町 佐香神社(さかじんじゃ)

 

主祭神…久斯神(くすのかみ)、別名、少名彦命(スクナヒコノミコト)、大山咋神(おおやまくいのかみ)

出雲大国の王、大国主命(オオクニヌシノミコト)と兄弟の契を結び、大国主命を助けて開拓と治民の大聖業を共になされたと言われる神さま。

お米で酒をつくった最初の神様として知られています。

また、出雲大社が作られたときに、全国から大勢の神々が佐香神社に集まって酒をつくり、180日間も酒宴を続けたことからこの地区を佐香(酒)と呼ぶようになったと出雲国風土記に書かれています。そのため佐香神社ではどぶろく祭りという珍しい神事が行われています。

毎年10月13日、佐香神社では宮司と出雲杜氏がを中心となりどぶろくを造りお供えをして、出雲杜氏が一同に集まり酒造の安全と豊作を祈る神事、出雲杜氏醸造安全祈願祭を行います。

現在では引退した出雲杜氏が醸造を監修していますので、とても美味しいどぶろくを飲むことができます。神楽の奉納や屋台もあり、出雲や全国の酒屋、飲食店も集まり、賑やかなお祭りとなっています。

出雲杜氏は佐香郷の出身のものが多く、佐香神社は醸造の神として出雲杜氏の信仰を集めています。 (内容は出雲杜氏組合誌より)

 

どぶろく祭り

 

出雲杜氏の名人たち

長崎杜氏

 

◎出雲杜氏 長崎芳久(天穏 前杜氏)

長崎杜氏は若かりし頃、鷹勇の坂本杜氏に弟子入りし、鷹勇で蔵人として働き、酒造りの腕を磨きました。

その後、美人長など数蔵渡り歩き、その後は広島の竹原にある藤井酒造に杜氏として赴任。

藤井酒造の現杜氏の藤井杜氏や現天穏の酒母屋の南場和明氏を育てました。

その後、高知の土佐鶴の杜氏を務め、最後の赴任先として私たち板倉酒造 天穏の杜氏となりました。

 

平成21BYをもって杜氏を引退されました。

引退後はお米やアスパラを作り、私たちの酒造りの相談や、蔵に直接来てアドバイスをして頂くなど、長きに渡り天穏を支えてくださりました。

 

2020年、突然のお別れとなってしまいました。

 

 

長崎杜氏

 

長崎杜氏は清らかで上品な吟醸酒を造るのが得意な杜氏さんでした。

醪を完全発酵させて日本酒度はプラスながら、酸やアミノ酸が低く、丁寧な酒造りをされる杜氏さんです。

その酒は10年以上経過しても綺麗さを保ち続けて現代の私たちにその酒造りの腕の凄まじさを示してくれました。

 

その酒造りの技術と意志は天穏のお酒の中に息づいています。

30BYの出品酒用の純米大吟醸を送った際には「お前さん、これは最高の純米酒ができたんじゃないかや」と興奮して電話をかけてきて下さいました。

 

天穏 純米吟醸 馨純米大吟醸 佐香錦純米大吟醸 山田錦など

佐香錦や山田錦の山陰吟醸シリーズは、長崎杜氏の酒造りを強く意識して製造設計しています。

 

また近年の天穏の余韻の長い酒質は、長崎杜氏のもろみの発酵管理からヒントを得ており、無窮天穏 天雲天頂に大きく活かされています。

 

坂本杜氏

坂本杜氏

坂本杜氏

清水台平野屋 野内さん、鷹勇 大谷社長、天穏 板倉社長 小島杜氏で懇親

 

◎出雲杜氏 坂本俊(鷹勇 元杜氏、長崎杜氏の師匠)

坂本杜氏は28歳で鷹勇の杜氏となり78歳までの50年ものあいだ鷹勇の杜氏を務め、下子の時期を合わせると酒造歴は60年に及びます。

酒類指導官の上原浩との純米酒造り(当時の純米酒は現在でいう純米吟醸)は有名で、多くの熱狂的なファンをつくり伝説の杜氏となりました。

山廃酒母や生もと造り、長期熟成に耐えるグルコースを切った吟醸造りが特徴的で綺麗ながら力強さを感じる酒でした。

 

長崎杜氏とは遠縁の親戚にあたり、鷹勇に下子として長崎杜氏を誘い、杜氏ができるまでに育てたようです。

長崎杜氏はページ上部写真の酒談義の際、坂本杜氏に「ワシはこの人にがいに(ものすごく)しごかれたけんのう」と笑いながら文句を言って仲の良い様子を見せていました。

 

天穏では現小島杜氏の体制になってから長崎杜氏とともに、利き酒を通してアドバイスをしていただいていました。

天穏の純米吟醸改良雄町を飲んだ際は「雄町でこの吟醸酒が造れるならなんも心配がないけん、自信持ってやりんさい」という言葉をかけていただきました。

 

純米(大)吟醸の改良雄町山廃は坂本杜氏の力強い吟醸酒を意識して製造しています。

 

しかしながら本当の坂本杜氏の力強い吟味、爽快な酒質は鷹勇という蔵でこそ真価を発揮するのでしょう。

ともに山陰を代表する素晴らしいお酒を目指していきたいと思います。

 

 

 

 

2020年、坂本杜氏、長崎杜氏が相次いでこの世を去りました。

 

私たちは彼らの技術や意志が残る酒造りを続けていき、次世代に伝えます。

彼らの残した技術と意志が私たちのお酒の血潮となり、天穏や鷹勇という銘柄の中で生きて続けていくことを皆様に知っていただければと思います。

 

 

 

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