R5BY 齋香荒 サケル
#Concept
【R5BY】天穏 齋香荒(サケル) & 齋香荒2(サケル2)
佐香錦50% 生酛 酵母無添加 日本酒度 -8 酸度 8.0 ALC16%
齋香荒(サケル) 1火 2024.4詰
生酛のもろみ(齋香)において乳酸菌が増える事態となりました。通常の生酛の場合、酒母段階でアルコール度数が上がるにつれて乳酸菌が溶けていなくなり、その後のもろみで乳酸菌が増えることはありません。今回の齋香では酒母段階で通常の乳酸菌とアルコール耐性のある乳酸菌が同時に増え、酵母発酵後も生き残ってもろみまで進んだことが予想されます。
そのためにこの齋香のもろみでは酵母発酵と乳酸菌発酵が同時に行われて酒になったということで、日本酒としてはとても酸度の高い酒となりました。協会酵母、野生酵母、乳酸菌のトリプル発酵で、このタイプのお酒をお見かけしている方もいらっしゃると思います。当然、はじめから意図した造ったものではありません。本当の自然醸造をしているからこそ出てくるもろみで、無添加をしている限り現れる可能性はあるもので防ぐことができませんでした。
味わいは齋香だと思うと全く違うお酒です。しかしながらこのお酒は、酸が高くても非常にクリアで奥深い味わいをしていて驚きます。齋香ではないけど清らかな齋香の基礎があるのか、この手の酒で出てくる乳酸菌のオフフレーバーや糠の香りが感じられず、ほとんど白ワイン(白ワインの酸度は8から9なので白ワインの酸の強さと同等)の味わいで、乳酸発酵が絡むナチュールワインとそっくりです。
もともと齋香になる予定だったため、3日麹や汲水はかなり繊細な造りをしていましたので、マスカット系の香りもあり、ワインのような酸と相まって悔しいけどクリアで軽くとても美味しい酒です。日本酒のバイアスを外せばこのクラスの酒はなかなか無いようにも思えます。飲めば分かっていただけるはず。とはいえ日本酒という前提をもって飲むと酸っぱい酒なので、お客様には説明が必要かと思います。
◎齋香は繋げる酒、齋香荒は避ける酒
製品名は齋香が荒れたので齋香荒(サケル)です。ここからはほとんど知られていないお酒のお話です。いままで齋香を通して人と神と御神酒の関係性をお伝えしてきました。現実世界の人と空想上の神(自然+祖先)は決して交わらない存在ですが、神から人への作物と水と土の贈与、人から神への御神酒の贈与という人間の頭の中の想像によってそのあいだに関係性を造り、人と神、人と人を繋げて巨大な群れをつくり日本は発展してきました。
人と神を繋げると大きな利益を生みますが、一方で神に近づきすぎると大きな災害も与えられます。畏れ敬うという言葉から伝わるように、昔の人は人と神を繋げる縁起儀礼と、人と神を引き裂く縁切り儀礼を使い分けていました。神社や鏡を境に人と神の住処を分けたり、お祭りには期限があったり、ハレやケ、ケガレという言葉があったりと非常にオン・オフを大事にしていました。
日本酒造りの原型を日本に伝えた秦族の神社である京都の大避神社を調べると、酒は齋香という神への供物という意味の他に、避ける、裂け、割く、境という意味を持っていたことがわかります。酒という言葉は、人と神を繋げる齋香という意味と人と神の繋がりを裂くという表裏一体の意味をはらんでいます。しめ縄が神事で用いられる理由も繋ぐことと割くこと、境を造ること、結んで開いてが同時に出来るからと思われます。
今回の乳酸発酵のもろみを受けて、私はこの齋香と避けという日本酒の表裏の世界が頭に浮かび、神(野生)に近づきすぎてしまったと感じました。酵母と乳酸菌、齋香と齋香荒という表裏一体の微生物の活動を間近で見て酒造りの恐ろしさを痛烈に浴びせられました。
実は酵母や乳酸菌などの生酸菌は植物が光合成でつくった糖やセルロースを分解して酸を貯め、外界的要因つまり自然界では岩や砂などの鉱物、蔵ではタンクのような容器を溶かして土に還そうとしているだけなのです。土は動植物とその分解有機物、微生物、鉱物、ガス、水が混ざった酸性のもので、お酒の醪も実は土の発生の仕組みと同じ構造をもっています。自然界にとって酵母や乳酸菌が増えて酸を貯めることは鉱物を溶かして植物にミネラルを供給するための真っ当な営みなので、今回の現象はなんとも自然なことなのですが、現代の酒蔵や杜氏にとって乳酸菌醪は致命傷です。大きな失敗ですので私もこの先どうなるか分かりませんが、サケル自体はとても美味しいので少しでも楽しく飲んでいただける結果となるととても助かります。
サケルの味わいは私たちの知っている日本酒とは異なって、ほとんどナチュールの白ワインの香味と同じです。しかしこのサケルの性質と背景はいままでに表現できなかった日本酒の「避ける」の部分の世界を持っているという意味ではとても日本酒らしいと感じました。つらいですが齋香と齋香荒で日本酒の表裏が造られたことにもなります。ミードやKODANEやリキュールのように天穏の幅を広げるお酒と捉えていただけると幸いです。
今後は様子を見てタンク貯蔵し、熟成形で出していくかもしれません。よろしくお願い致します。
齋香荒2(サケル2) 2火 2024.8詰
大反響でした。行く先々で話しが出て、多くの良い言葉をいただき救われました。ありがとうございます。こいつのモロミを管理していたときの自分に聞かせてやりたいです。
タンク熟成を経て2火として再びリリースです。試していただいた皆様にはご理解いただけていると思います。さっと飲めばサケル、よくよく飲んでいくと齋香だなあ、天穏だなあ、結局は小島の酒だなあという感じで、おのずと飲んでしまい求めてしまう。
その続編ということで、サケル2はまた違う顔を見せてくれています。2火も旨いですね。ずるいです。そして今回の分で完全終了です。サケル、また逢う日までさようなら。
#Tasting
#Information
原材料名 | 米、米こうじ |
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原料米 | 奥出雲産佐香錦100% |
アルコール | 16度 |
精米歩合 | 50% |
日本酒度 -8
酸度 8.0
酵母無添加
無濾過
1回火入れ 2024.4月詰
2回火入れ 2024.8月詰